主査:西井和夫(山梨大学名誉教授)
副主査:秋山孝正(関西大学教授)
これまで都交研の研究委員会では、都市鉄道事業を取巻く「鉄道サービス・運賃論」、「需要分析・予測方法」、「ネットワーク整備論・沿線開発」など数多くのテーマについて検討が重ねられてきた。近年では、「鉄道でまちづくり」や「都市のコンパクト化と交通」のテーマのもとに「駅」(ノード)施設のサービス機能の検討あるいは駅施設の周辺地区形の変遷は、都市鉄道事業者にとって事業経営に直接的な運輸・交通部門に関連する「サービス」「需要」「ネットワーク整備」から「鉄道とまちづくり」「公共交通と都市構造」という外部性(関係性)への展開(ここで、関係性とは『都市鉄道事業』を『都市』と『鉄道(事業・経営)』との関係性を指す)が特徴的である。今後は、鉄道事業を通じた様々な革新的なサービスの提供が地区や沿線の付加価値の向上そしてまちづくり(鉄道ターミナルエリアの拠点機能強化)にどのように資するかという主題への実証的(定量的)展開が求められる。また、このような研究テーマの変遷の時代的文脈に着目すれば、都市鉄道事業者にとっては鉄道事業部門(交通サービス中心の運輸交通部門)だけでなく、非鉄道事業部門(不動産・レジャー・小売などの都市開発部門)拡充・強化による事業経営戦略についても注目すべきであり、さらには今回の新型コロナ感染症の世界的拡大に伴い「with/post-corona社会」を見据えた新しい生活スタイル(New
Normal)へ適切な対応のあり方についても喫緊の対応テーマとして位置づけるべきであろう。
そこで、本委員会では、『交通結節施設』そして『都市的活動の場(空間)』としての「鉄道ターミナル(エリア)」をキーワードとして取上げ、交通サービスだけでなく様々な都市的活動サービスの「空間」として、利用者にとって魅力的な(付加価値の高い)、事業者にとって持続可能な事業戦略に適った(sustainably
manageable)そして望ましいエリア形成(まちづくり)に資するような、これからの鉄道ターミナルの空間整備のあり方を検討していく。
「鉄道ターミナル」に着目するのは、「鉄道駅」(駅本体施設)という表現とは区別して、まちづくりや地区・拠点形成の検討において、鉄道駅施設に直結(隣接)した地区として一定の空間的広がりを有するエリアの有する諸機能(交通結節機能とそれに関連した都市的諸活動のための空間機能)を明示的に取上げることができ、またそれらの多様でかつ今日的ニーズに合致した革新的なサービス機能の充足・整備によって「鉄道と都市との新たな関係性」の構築に向けた知見を得ることが期待されるからである。
本委員会は、都交研の学識メンバーおよび鉄道事業者メンバーの他に、5名の招聘委員の体制により2020年11月にスタートし、数回の研究委員会を開催してきた。この間、これまでの研究委員会の諸テーマを再考し、鉄道事業と都市との関係性に着目した鉄道ターミナルエリアの捉え方、政策評価・効果分析の考え方とともに、鉄道ターミナルにおける移動・活動サービスに関する定量的な需要分析方法およびエリア・マネジメント手法についての基本的な課題の検討を行っている。2021年11月からは,2年目に入ることから、これらの課題に対する実証的な分析に入るとともに、その結果を踏まえながら、都市鉄道事業者にとって、post-coronaを見据えた鉄道ターミナル整備が多角的経営などの事業経営戦略にどのように関与と影響を与えるかについても検討を進める予定である。
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